<シーン11:修羅場る生徒会執行部 其の参>
「なんだか展開が少女漫画染みて来ているようだけれど・・・。」
「文句を言うならもう書かないぞ」
「まあ、自室の本棚に白○社やり○んコミックスを並べている人に頼んだのは私だから、それは言っても仕方のないことかしら・・・あら、前田君ありがとう。零れるからそっちに置いてくれる?」
グラスに注いだ麦茶を机に置こうとして、会長に注意された。
僕は少し離れた場所へ冷たいお茶を置く。
一つは会長の隣の机へ。
もう一つは石田先輩が座っている席の、隣の机へ。
茶卓がカタリと立てた音に、副会長がピクリと反応を示したので、僕は小声ですいませんと謝った。
副会長は自分のものでもない麦茶を少し鬱陶しそうに見つめたが、結局何も言わず、また議事録に目を戻した。
僕も席へ戻ると、夏休み明けに持ちこまれた各部からの領収書の処理を再開する。
しかし、会長達のことが気になって、どうにも集中できなかった。
会長はどうして石田先輩の部屋の本棚のことなんて知っているのだろうか・・・やはり、部屋へ上がったから・・・なのかな。
「まったく・・・直せばいいんだろ、直せば。・・・で、どこだよ?」
小説が売れないなら、金を返してもらうと脅された石田先輩が溜息を吐きつつ、ぶっきらぼうに言った。
「ここで泣きそうになりながら立ち去る主人公を、どうにかできない?」
白魚のような美しい指先で原稿を示しながら会長が言う。
それにしても、石田先輩は確か文芸部を退部した筈なのに、どうして会長の為に原稿を仕上げようとしているのだろうか。
やはり、会長に近づきたいから・・・?
ああ・・・っ、ダメだ。
気になって仕事にならない!
「前田君・・・ちょっとこれに目を通してみてくれない?」
そのとき、隣で作業を続けていた上杉に声をかけられて、書類を手渡された。
確か彼女は、先日生徒会メンバー全員と有志数名で訪問した福祉施設でのボランティア活動について記録をまとめていたはず・・・。
「ねぇねぇ、このオチってどうかな? 主人公の思い人が、実は女装した男だったってオチ・・・面白くない?」
手渡された書類には、約20ページにわたり、キラキラした感じのマンガが描かれていた・・・ああ、この人が真面目に仕事をしているだなんて夢みたいなことを、どうして僕は一瞬でも信じたりしたのだろうか。
「はぁ・・・あの、『隣節して立てられている』は『隣接して建てられている』が正しいんじゃないかな・・・」
おまけに漫画はパッとみただけで、誤字脱字が10ヶ所以上は発見できた。
聞こえていたらしい副会長のこめかみがピクピクと反応しながら、グラスに手を伸ばした。
・・・それは石田先輩のお茶だったが、まあいいか。
仕方がないから注れなおそう。
「どうにかって、どうしてほしいんだよ・・・」
やれやれといった感じで石田先輩が聞いた。
「どこかで押し倒しなさい。」
冷蔵庫へ向かおうと俺が立ちあがった途端、副会長が盛大にお茶を吹いていた。
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