彼は暗い機内で時折火種をぼんやりと明るく点しながら煙草を燻らせていた。
その口唇が生々しく光っているように見えるのは、気のせいではないだろう。
「可哀相にな・・・よほど溜まっていたんだろ」
「うるさいな」
ジョニーの言葉が耳に痛く、羞恥で顔をそむける。
「でも、それは君も浮気をしていないって証拠だ・・・。もともと疑っちゃいなかったが、それでも聞いたら喜ぶだろうな」
「え・・・・なんの話・・・って、ちょっとおい、何を・・・むっ」
突然、強く手を引かれ、立ち上がったジョニーに、引きずるように通路へ引っ張り出される。
だが、そこで一旦立ち止まった彼から、口元を強く押さえられた。
「みんな寝静まってるから、静かにな」
「お前がいきなり引っ張るからだろ。っていうかさっきから・・・あんな変なこと俺にしたり・・・」
「気持ちよくなってたくせに」
「それはっ・・・仕方ないだろ、男なんだから・・・っていうか、お前やっぱり、あのまま俺の・・・その・・・」
飲んだのか、とはさすがに聞けなかった。
そして、ジョニーは意味深に笑っただけだった。
「まあ、とにかくさ・・・そっちは収まったかも知れないが、こっちはまだなんだよね」
「えっ・・・」
「とりあえず、ついてきてくれよ」
そのまま俺たちは、ふたたびあのトイレへ向かった。
ジョニーは一言で言って、手慣れているという印象だった。
トイレへ入るなり彼は俺の口唇を奪ってきた。
「はむ・・・・んふっ・・・」
濃厚なキスに翻弄され、いい加減に直していただけで、ベルトも締めていなかった前は、あっというまに寛げられて、再び股間を剥き出しにされた。
「あれだけ出したくせに、キスだけでもう立ってるな。そんなに俺とするのは気持ちいいか?」
「誰がっ・・・やあんっ・・・!」
ペニスを握られ、ふたたびゆっくりと扱かれる。
気持ちよかった。
自分でするときとは比較にならず、明日香とするのとも、また別の快感だった。
ペニスを刺激されながら、もう一度口唇を合わせ、ジョニーは反対側の手だけで器用に俺のシャツを脱がせていった。
続いて先程のように便座に座らされ、腰を抱え上げられて、ジーンズと下着も抜きとられる。
つまり、全裸である。
「綺麗だな、畝傍・・・」
ジョニーが目を細めて俺に言った。
褒められるのは、お世辞でも悪い気はしなかった。
「何を・・・する気だ・・・」
だが公共のトイレで裸にされ、俺はその心許なさで不安になる。
そして、それだけではない感覚を、確かに感じてもいた・・・・初めての経験だった。
「今さらその質問か・・・? それとも、君は言葉で責められるのが好きなのか? それもいいな・・・それじゃあ教えてやる。こうして・・・君の腰を抱えて、俺の指を穴に入れて弄くり倒す」
いちいち具体的に説明をする言い方が、とてもいやらしかった。
「や・・・め・・・痛っ・・・」
そして言った通りのことを、ジョニーは実行する。
今まで誰にも触られたことのなかったような場所に、異物を感じ、固くそれを締め付けようとしていた。
「おっと・・・きついな。やっぱりここは初めてか。・・・じゃあ、もう一度フェラチオをしてやろう・・・」
「んあっ・・・ああん・・・」
ふたたびペニスが生暖かい粘膜に包まれた。
同時に奥に入れられた指を少しずつ動かされる。
「や・・・ちょっ・・・と・・・変・・・・」
異物感が気持ち悪かった。
だが、最初は痛さしか感じられなかったそこから、だんだんと違和感が消えてくる。
ペニスを刺激される快感と、後ろを触られる感覚が徐々に一体となってきて、どちらが気持ちよいのか、次第に俺はわからなくなっていた。
不意にジョニーが指先で触れた場所に、強烈な快感を覚えて身体が跳ねる。
俺はその刺激に、脚をつりそうなほど、大きく仰け反っていた。
「あっ、あっ・・・・!」
「ここがいいのか・・・?」
ジョニーはペニスから口を離して俺に顔を近づけると、目を覗き込みながら、確かめるように聞いてきた。
ふたたび入り口付近にあるその場所を、指の腹でぐいぐいと押して、俺が同じような反応を繰り返すのを確認すると、今度はそこを引っ掻いたり周りをじわじわと撫でたりしはじめる。
すぐに指の数が増え、やはり同じ場所ばかりを刺激された。
ペニスへの愛撫はもうなくなっていたが、俺の勃起は収まるどころか、さらに立ち上がって先走りに濡れていた。
「やあ・・・・もう・・・」
俺は身をよじりながらジョニーへ訴える。
「もう・・・何だ? どうしてほしい?」
相変わらず俺の穴へ突き入れた指を動かしながら、ジョニーは聞いてきた。
「あ・・・んんっ・・・だから・・・もう・・・」
もう・・・どうしてほしいのだろう。
その先の言葉は、絶対に言ってはいけないような気がした。
「なるほど・・・経験がないから、どう強請っていいのかわからないんだな。じゃあ、これでどうだ?」
不意に穴から指が抜かれる。
「や・・・えっ・・・?」
急に圧迫していたものが消えて、俺は心許ないと感じていた。
すると目の前で蹲っていたジョニーが立ち上がり、自分の股間を見せつけてくる。
そこは固いデニム生地の下でさえ、大きく盛り上がっているのが分かった。
俺は目を見開いてそれを見つめ、熱い息を吐いていた。
彼は前を緩めて、ファスナーの間からそれを取り出す。
体格に見合った立派な性器は、しっかりと勃起して、俺と同じように先走りに濡れていた。
「物欲しそうだな。・・・咥えたいか?」
俺が返事をするより先に、彼は俺の頭を抑えると、口唇に熱いものを当ててきた。
塩辛い体液が流れ込んでくる。
「ん・・・むん・・・」
「ほら、しっかり口を開けて。俺のはそんなに小さくないぞ」
先端を口唇の隙間にぐいぐいと押し当てられ、俺は反射的に口を開いていた。
次の瞬間、喉の奥まで大きなモノが入ってくる。
「はむ・・・ん・・・ぐっ・・・」
反動で胃の内容物が押し上がってくる感覚があったが、ぐっと堪えた。
「結構いい顔してるぞ。・・・本当はこういう方が好きなんじゃないのか?」
上顎に、頬の内側に、喉の奥にと、ジョニーが自分のものを擦り付けてくる。
ただでさえ大きく勃起していたものが、口の中でさらに形を変えて、量を増していくような気がした。
「んん・・・ふん・・・ふあ・・・む・・・ん」
気が付けば俺も夢中になって彼に奉仕していた。
口唇で、舌を使って、手を添えて、必死になってジョニーに尽くす。
だんだんと上から聞こえる息づかいに余裕がなくなっていくのがわかった。
もうすぐ、俺の口の中で彼が弾けるのだろう。
そうしたら、彼がしてくれたように、俺も飲み干すべきなのだろうか・・・・俺は彼のものを飲みたいのだろうか。
自分が徐々に変わっていくのがわかった。
俺は・・・・彼が言う通り、本当はこういう方が好きなのだろうか。
不意に髪を強く掴まれて、股間から引き離される。
「なん・・・・で・・・」
もう少し、そうしていたいと思っていた自分に気が付いた。
「なかなか良かったけど、そろそろ・・・ね」
ジョニーの顔が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
彼に強く腕を掴んで立たされ、身体の向きをくるりと回転された。
背中を強く押されて、反射的に両方の掌を便座に突く。
高く腰を上げた状態で、後ろから脚を開かされた。
そして、固く熱いモノが窄まりに触れたかと思うと、それが一気に中へ入ってこようとした。
「あっ・・・・・あああ・・・・っ!!!!」
「力を抜いて・・・」
「む・・・無理っ・・・」
強烈な痛みだった。
先程まで熱に浮かされたようにジョニーのペニスを舐め、彼の指に前立腺を刺激されて感じていたような快感は、完全にどこかへ消え去っていた。
ふたたび彼の手が俺のペニスを刺激し始め、それはやはり気持ちよかったが、だからといって肛門を引き裂かれる痛みが消えるものではなかった。
しかしペニスを愛撫されながら後ろを刺激されているうちに、だんだんとその痛みが気持ちよくなってくる。
俺が射精をすることは最後までなかったが、ジョニーは後ろと前から俺を抱き、ちゃっかり立て続けに中で出していったようだった。
そうされながら、俺はなんとも言えない充足感に包まれていた。
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