話がなんだか変な方向に進み始めていた。 「朝倉君・・・冷たいじゃないか」 「やめろっ・・・・・・!!!!!」
ましてセックスなどと・・・ビジネスの場に相応しくない言葉を出してくれる。
マナー違反だが、それを止めようにも、俺は頭がぼんやりとして、うまく言葉が操れなかった。
こんな時に役に立つ筈だった仕込みネタまでもが、どういうわけか何ひとつ口をついて出てこない。
本当に可笑しい。
身体も熱くなってきている。
酔ったのか・・・?
「まして君のような美人なら、言い寄って来る相手も女だけじゃなく、案外男の方が多いんじゃないのか?」
「あの・・・社長・・・」
呼吸が乱れてきた。
身体が熱い・・・まさか・・・俺は欲情しかけている?
「おや。どうやら酔ったみたいだな。・・・仕方がない、部屋へ案内しよう」
なるほど・・・・酒に何か入っていたんだ。
鴻巣が立ちあがり、俺の腕を肩に回す。
触れられた場所がざわついた。
息がどんどん乱れてくる。
「あの・・・お客様、大丈夫ですか?」
ウェイターが飛んで来る。
「すいません・・・」
お願いだから、タクシーを呼んで・・・俺をここから逃がして・・・心でそう願った。
「どうも酒に弱い性質みたいでね・・・まさかこんなになってしまうとは。だが心配ないよ。少し部屋で休ませて、彼を送るから。会計は1020号室につけておいてくれるかい?」
ホテル名が入ったカードキーを見せながらそう言う、鴻巣の自然な語り口に、ウェイターが納得し、店頭で立ち止まって俺達を見送ろうとする。
そうか・・・だから先回りをしてラウンジに来ていたのか。
最初からこうするつもりで、予めチェックインを済ませ、薬を用意して待ち構えていたとは・・・用意周到で恐れ入る。
この状態で部屋まで連れていかれては、どうなるか先が見えている。
逃げないと・・・助けを呼ばないと。
俺は心でSOSを発しながらウェイターを振り返り視線を送り続けていたが、うわごとのような言葉は片端から、和やかな鴻巣の話し声に掻き消され、気付いてもらえるはずもなかった。
エレベーターを待つ間、鴻巣の手が俺の尻を撫でてくる。
「社長・・・」
止めてくださいと言うつもりだった俺の呼びかけは、もはや自分で聞いてもキスでもねだっているような甘いものでしかない。
「おやおや、そんな声を出して・・・そろそろ私が欲しいんじゃないのかね?」
前から両手を胴に回されて、背中を壁に押し付けられながら、欲を孕んだ目が俺を見下ろしていた。
朝倉君、・・・冷たいんじゃないのか?
私に何をされると思った・・・こういうことか・・・?
フラッシュバック現象に囚われそうになり、記憶の奥底に封じ込めた筈の映像と音声が脳裏に再生されようとしていた。
エレベーターがやってくる。
「嫌・・・」
「そんなに目を潤ませて言っても、まるで説得力がないぞ」
開いた籠へ引っ張り込まれる。
扉が閉まると同時に、奥の鏡へ身体を押しつけられた。
「やめて・・・くださ・・・」
強引なキスが俺の唇を塞ぐ。
酒臭い息。
軟体動物のように動き回る舌が俺の口内を貪る。
手が尻の上を忙しなく動き、足が股間を強引に割って入った。
スルリと前へ回り込んだ掌で、ファスナーの上から乱暴に刺激される。
立ち上がりかけいた物が、強烈な快感を感知して一気に暴発した。
「あぁ・・・・っ!」
息が跳ね上がる。
視界がぼやけ、意識が記憶の狭間へ沈み込む。
酒臭い息で仁礼が近づいてきた。
俺は身体が竦みそうになる。
「酔っていらっしゃるんですか・・・タクシーをお呼びしますから・・・・・・っ!」
素早く脇を通り抜けようとした腕をつかまれ、後ろから覆いかぶさるように抱きこまれた。
「そんなに嫌かね・・・君はいつだって、私を避けようとする・・・今日だって、どうせわざと会社へ残ったんだろう?」
「放してくださいっ・・・いや・・・嫌だっ!」
「私が怖かったからか? ・・・私に何をされると思った・・・こういうことか・・・?」
背後から伸びた手が荒々しく俺の身体をまさぐり、服を脱がそうとした。
シャツのボタンが、いくつか弾け飛ぶ。
「センター長・・・やめてください・・・お願いだから・・・嫌だ・・・っ!」
「糞っ・・・何をするんだ、君!」
俺は圧し掛かって来る体重を渾身の力で押し退けると、自分の身を引き、ドアへ向かって飛びついた。
「嫌だっ、助けて・・・、誰かっ・・・!」
閉まったままのドアを拳で連打する。
「馬鹿野郎、落ちたらどうするんだ!」
「来るな・・・近づくな・・・俺に触るな・・・!」
足をバタつかせ、距離を縮めてくる男を追い払おうとした。
「うわっ・・・おい、こら何を・・・」
蹴りが何発か相手の顎にクリーンヒットする。
再び俺は後ろを振り向き、アルミのパネルが張り付いた壁を掌で叩く。
回数ボタンが片端から点灯した。
間もなく近場のフロアへ到着する。
俺は開きかける扉から這い出るようにして逃げ出した。
「畜生っ・・・覚えていろよ!」
後ろから男の低く吐き捨てるような台詞が、背中へ投げつけられた。
08
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