二宮はその後、太陽電光の固定回線で検索して、『ネットワークソリューション』なる法人契約を突き止め、太陽電光の住所で検索して、『フロンティアシステム』なる法人を見つけた。
そして『フロンティアシステム』の固定回線で検索し、『スターコミュニケーション』と、電話屋本舗の代表者三原隆一郎の個人回線契約に行きついていた。
「開通日はすべて同じ。登録完了時間も20時半から21時にかけて・・・閉店間際で慌ただしい時間帯に押し掛けて全回線一斉に登録したため、システムが互いの情報を発見できなかったんだろうな」
しかも新規で一度に開通可能な制限ギリギリの回線数・・・法人5回線、個人2回線の上限ぎりぎり。
しかも、三原個人の契約以外は、すべて添付書類が会社成立日直近の現在履歴事項証明書と代表者兼申し込み来店者の保険証と住民票。
法人確認書類や住民票の発行日は全て登録日。
まったく同じパターンだ。
「受付店も近隣ではありますが、全部違いますもんね」
一度に持って来られていたなら店頭で何かに気が付いたかも知れないが、バラバラの代理店で受け付けたとなると、受付店や登録担当者の見落としを責めるわけには行かない。
しかもその時間帯では急かされた可能性もあるだろうし、代理店のチェックも甘くなりがちだ。
「それでだな・・・」
二宮がさらに新しいウィンドウを表示させた。
「城東電機ですか?」
何かあるのだろうか。
ここはまだ利用実績がないので、当然ながら滞納もあるわけない。
今の話では、城東電機に結びつくような材料も見当たらない。
二宮が城東電機の申し込み受付時のデータを表示させて、添付書類を開く。
「ここも現在履歴事項ですね・・・まさか!」
二宮が数枚綴りのその書類をスクロールさせ始めた瞬間、俺は彼が言わんとすることに気が付いた。
「三原隆一郎、阿蘇修二、桜島健二、雲仙浩史・・・それぞれ、太陽電光株式会社、ネットワークソリューション、フロンティアシステム、そしてスターコミュニケーションの代表者達が、どういうわけか全員、城東電機の役員だったというわけだ」
言いながら二宮が役員に関する事項の欄をようやく表示させた。
これはやられたと思った。
法人登録の場合、通常の偽造審査以外にも、法人名や固定回線番号、郵便番号での顧客情報管理システムによる検索、そして代表者名に来店者名の名寄せと、個人に比べれば審査内容はそこそこ厳しい。
その中で法人以外にも代表者や来店者に滞納があったり、検索結果で別の滞納回線や、過去の審査で添付書類の偽造等、悪質な材料が見つかれば、それ以上に踏み込んで審査は続行される。
だが、今回のケースのように、自社、他社含めて滞納があったわけでもなければ、過去の偽造等が発覚したわけでもない申し込みケースでは、書類に記載されているとはいえ役員の名前まで名寄せ審査は、まずしない。
添付書類にペーパーカンパニーを匂わせる現在履歴事項証明が来ていたとしても、それが偽造でもなければ、書類自体は受付可能な物だ。
見過ごしたとしても仕方あるまい。
しかも城東電機以外はいずれのケースも、顔写真のない申し込み書類で来ているとなると、成り済ましの可能性が新たに出て来る。
ここまで不正契約の条件が揃っていると、何か理由をつけて役員達の保険証を回収し、協力者に契約をさせていたとしても可笑しくはない。
そうなるとかなり悪質だ。
「ついでに・・・想像は付くと思うが、中国サイトで売られてる機種だけど・・・」
「城東電機が契約した物と同じってわけですね」
計画的な転売だろう。
鴻巣は俺に提案するまでもなく、最初から料金を支払う気なんてなかったわけだ。
「1500もの大量回線契約が、最初から転売目的だったと見ていいだろうな・・・あの狸野郎、ムカつくぜ」
当時の契約担当者だった二宮が、大きな舌打ちを鳴らした。
「でも、ひとつ俺には判らないんですが、どうして城東電機みたいな大きな会社がこんなこと・・・発覚して社会的制裁を受けるほうがダメージは大きいでしょう」
「理由はこれだろうな」
そう言って二宮が新たな検索をかけて開けたのはニュースサイト。
昨年の発火事故だ。
「でもこれって、城東電機は速やかに謝罪広告を出して、厚いアフターケアで対処していたでしょう? だからそれほど非難もされなかったと記憶してますよ」
むしろ、その後に起きた別会社の同様のニュースの時に、城東電機の見事なケアと比較されたりして、逆にイメージは上がったんじゃないかとさえ言われていた。
「それはそれは繊細な対応だったらしいからな。被害を申告してきた客に、金券渡したりとかもあったっけ・・・。あれで城東電機はかなり金かけたらしいぞ。一番高くついたのはマスメディアへの根回しという噂だけどな・・・」
「そんなことまで・・・?」
次に二宮が見せてくれたのは、有名な巨大掲示板サイトだった。
そこには城東電機から半年前に契約を打ち切られたと名乗る元派遣社員が、匿名で内部告発を繰り広げていた。
それによると、発火事故のあとで大量の派遣、パート切りがあったこと、同じ時期に中国工場で負傷者十数名を巻き込む事故があったが、それはなぜか日本ではほとんど報道されていなかったということ・・・これは該当記事がある中国のニュースサイトの日本語版ページへのリンクが貼られて、記事内容が確認できた。
さらに従業員同士の陰湿な苛めや二宮が指摘した、発火事故時のマスコミの抱き込みなどについて、告発文が十数行に渡って書かれている。
下手な中傷にしては、手が込みすぎているから、一応の信憑性がありそうだ。
「これを見る限りじゃ、城東電機はあの一件以来、俺達が思っているほど余裕のある経営ができているとは思えないぞ」
「そのようですね」
そして自社工場のある中国の関係者を通じて、現地で取引される日本の携帯端末の転売市場を知り、試しに役員の名前で契約して飛ばしてみたところ、恐らく期待通りの成果を得られた。
しかし、個人名や実績のないペーパーカンパニーではモノの入手にも限界がある。
そこで思い切って城東電機の名前で、大量契約をして一気に売り捌こうとしたというところなのだろう。
「なあ朝倉よ・・・鴻巣社長の要求してきた通り、今月請求分の利用料金をタダにしたところで、結果は同じだと俺は思うんだが」
「俺もそんな気がしてきました」
転売が目的なら回線自体に用はない。
実際どの回線を見ても、上がっている請求は基本料金と端末代金ばかりだった。
通話やパケット通信といった使用料は見事にゼロである。
ICチップを抜かれた白ロム端末が本体引き渡し後すぐに中国へ渡っているのなら、そりゃあ回線が利用される筈はない。
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