商店街から当てもなく歩き続けた僕は、気がつけば公園の遊歩道まで来ていた。臨海公園駅の踏切を通過したあたりで、走るのは止めていたが、それでもマリンホールでしこたま飲んでいたアルコールは、走ったことでまた身体に回ったようで、段々と気分が悪くなっていた。公衆トイレを見つけて入ると個室の戸も締めないうちに便座の前へ跪き、こみ上げてきたものを吐く。
胃の中が空になって幾らかスッキリしたが、それでも走ったことと吐いたことで体力は限界だった。遊歩道に戻ってベンチへ腰を下ろすなり、上半身を横たえて瞼を閉じる。頭の芯がグルグルと回った。目を閉じているうちに眠気が訪れ、あっというまに睡魔へ引き込まれていた。
いつの間に人が集まっていたのかはわからない。ガヤガヤとした複数の声と肌寒さで意識が戻った僕は、自分を覗き込んでいる人物と目が合った。
「兄ちゃん気が付いたみたいだな」
第一印象は異様に輝いている双眸……白目がやたらと目に付いた理由は間もなく理解した。伸びきった髭が顔半分を覆い、同じく伸び放題の髪が顔の周りを取り囲んでいる。毛先は幾つかの束に纏まっていた……レゲエの人がよくやっているあれだが、けっしてファッションでしているわけではない。汗や皮脂、汚れで髪が勝手にそうなったのだ。顔がよく見えない理由も、最初は陰になっているせいかと思ったが、すぐに肌の汚れだと判明した。何よりも覆い被さっている男から漂う、酷い悪臭……視線を首より下へおろせば、元々衣類であったらしきボロが、身体のところどころに纏わりついている。考えるまでもなく浮浪者だった。
「何……あっ……」
なぜ、自分の上に見知らぬ浮浪者が身を屈めているのか……その疑問を口にしようとして、僕はあらぬ感覚に囚われ、中途半端に声をなくしていた。身体の中心に集まる血流……この感じは、大抵自室にこもり、アダルトサイトを巡りながら、自分のモノを弄んでいるときに味わう快感……射精感である。しかも、その部分は熱と湿り気に覆われ、これまで味わったことがないほど、気持ちいい。自分に何が起きているのかが知りたく、首を伸ばしながら半身を上げようとして股間を覗き、さらにギョッとする。
僕はおそらく一糸纏わぬ姿で野外に横たわり、その周りにはざっと見た限り4、5人の浮浪者と思われる男達が集まっていた。そのうちの一人は、ニヤニヤしながら自分を顔を見下ろし、話しかけてきた男で、彼の右手は己の股間に伸びている……擦り切れた衣類から取り出した自分の性器を弄んでいるようだった。別の男は爪の黒く汚れた手で、僕の上半身を撫で回している。そして肝心の部分……そこはよく見えなかったが、視力が効かない理由を理解したとき、ますますゾッとした。暗闇に近い公園で……おそらくは彼らによって僕はベンチから茂みへと運ばれ、そこで服を脱がされた。そして彼らの一人が僕の股間に顔を埋め、性器を口に含んでいるのだ……つまり僕は浮浪者にフェラチオをされているようだった。
「やめ……ああっ……んあ……」
「兄ちゃんがイきそうだな……」
僕の上半身を撫で回している男が、ニヤニヤと笑いながら言った。黒い爪が胸に伸び、乳首を思いきり抓られて飛び上がる……痛いだけのはずの行為が、股間の快感との相乗効果で、奇妙な新しい感覚を刺激された。そんな場所が気持ちいいと、僕は初めて知った。
「わしのも気持ち良くしてくれよ……」
顔を覗きこんできた男がそう言って背を伸ばし、手早く全裸になりながら移動した。男は僕の頭の上へとやって来ると、その場で再び膝を下ろす。続いて背中の下へ手にしていた嵩張る物……恐らく彼が脱いだ衣類を丸めて押し込んだ。僕は弓なりの姿勢を強いられる。直後に視界が暗くなり、ごわついた陰毛や腿の毛が鼻や頬の表面を掠めて、同時に強すぎる悪臭にたまらず目をきつく瞑る。表面の濡れた熱いモノが唇に押し付けられ、拒絶の言葉を発しようと開いた口へ、すかさず一気に入ってきた。
「んああああああっ……!」
「おお、すげぇいいわ……」
感極まった声が頭上で聞こえる。唐突に喉の奥まで押し入られ、再び嘔吐感に襲われるが、胸を反るようにして仰向いた無理な姿勢がそれを許してくれない。口の中にじんわりと広がる苦さ……先走りを零している勃起を銜えさせられ、フェラチオを強要されているのだと理解する。
「うおっ……おぉ……」
男は奇妙な声を上げながら、頬の内側や咽喉に性器を擦り付けた。頭上から覆い被さるようにして、腰を上げたりおろしたりを繰り返すたびに、ベタベタと鼻や頬を叩かれ、それが恐らく陰嚢だろうと気付くと、ますます気持ちが悪く、同時に妙な興奮があった。
「ふっ……んあ……ぐあ……」
「兄ちゃんも気持ちよさそうや……わいも我慢できん」
別の男の声が聞こえ、同時に弄られていないほうの乳首に濡れて熱いものを押し付けられる。そのまま先端で乳首を押したり、グリグリと捏ね回されたりすると、ますますたまらない気持ちになっていた。
「ああっ……出そうだ……」
頭上で感極まった声が聞こえ、口の中のものが跳ねる。次の瞬間、喉の奥をドプリドプリと苦いものが流れ落ちてきた。それはひどく粘ついて喉に絡まり、僕はしばらく咳が止まらなかった。それでも、男とほぼ同時に自分も射精していたことに遅れて気がついた頃、今度は股を大きく割られて別の男がそこに跪いた。
「おっぱいだけやのうて、今度はわいにもこっちちょうだいや……」
僕の乳首にペニスを擦り付けていた、訛りのある男が、そう言いながらニッカと笑った……歯がボロボロだった。
「んあぁああああああああああああああっ……!」
一気に肛門を犯され、かつて経験したことのない痛みに泣き叫ぶ。
「俺はこっちだ……」
上半身を撫で回していた男が次に頭上へ回り、再び僕はフェラチオをさせられた。そのまま黒い爪の両手が頭上から左右の胸にも伸び、皮下脂肪を鷲掴みにする。そのまま五指がバラバラに動いて、容赦のない握力がかけられた。男ながらに胸を揉まれたのだ。
「んぐあぁっ……ああぁ……」
「ええおっぱいやなあ、めっちゃエロいで兄ちゃん。おまんまんもたまらんし、こんなんすぐイってまいそうやわぁ……おっちゃんらゴムなんか持っとらんから、孕ましてもうたら、勘忍やで……」
下品な煽りは頭を素通りしていた。他人と交わす初めての性経験の激しさに、僕は完全に翻弄され、思考が追い付かなかった。慣れとは大したもので、悪臭はもはや気にならなくなっていた。最初の男よりもずっとサイズが大きい性器は、喉の奥を繰り返し刺激してくる。嘔吐感を通り越して、咽喉を直接突かれる痛みが辛かった。何よりも肛門から挿入されたペニスがありえない。狭い場所を何度も無理矢理勃起でこじ開けられる感覚は、さながら真っ赤に熱した鉄棒を肛門から突き入れられるに等しい苦痛だと思えた。身体の内側をゴリゴリと力づくで抉られる熱さと痛さは尋常ではない。このままでは、いつか本当に身体を引き裂かれそうだと思うのに……。
「んあっ、んあっ、ああっ、ひああっ……」
自分を犯す浮浪者達の、息遣いと熱気、圧し掛かる体重……そして口の中に滲み出ている苦い精液と、握り潰す勢いで揉まれる胸の感覚、指の間で転がされる乳首の刺激……。
「あっ、ああんっ、ぃあんっ、んああんっ……」
二人の浮浪者に滅茶苦茶にされながら、僕の身体は痛みとは違う感覚を徐々に味わっていた。
「なんや、兄ちゃんもええ声出し始めたなあ、……わいのマラ美味いんかぁ? おまんまん、きゅうきゅう締まっとるでぇ」
「こっちも、いいぞ……おあっ、凄い……持って行かれる……」
巨根の男が、ぐっと腰を下ろし、先端がこれまでにないほど深く突きいれられた。顎が外れそうな不安が頭を過る。
「んあああっ、ぐぁあああああああああああ……」
「ああっ、はあっ……」
あり得ないほど奥まで咽喉を押し広げられ、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになる。まともに上げられない悲鳴を発しつつ、同時にすぐ近くで聞こえる別の喘ぎに僕は気付いた……どうやら最初に僕のペニスを銜えていた男が、別の男と交わっているらしかった。犯されている方の男は、きっと日頃から、彼らの中でそういう立場なのだろう。
「うあっ……たまらん……締まる、締まる……」
肛門を犯していた男が、速度を上げてパンパンと腰を打ちつけながら、感じ入った声を出した。僕も無意識に腰を動かし、少しでも男のモノを感じようと試みる……そうして尻に力を入れる度に、不思議と頭の芯が痺れるような感覚に襲われた。それは紛れもない快感だった。
間もなく腹の中に熱いモノがじわじわと広がる……その瞬間、僕はかつて感じたことがないほどの開放感を、同時に味わっていた。
「ジンちゃん、早く変われよ……次は、俺だ……」
そう言って喉を犯していた男が股間に回り、しっかりと勃起した巨根を肛門へ突きたてた。一気に奥まで挿入される感覚は、もはや気持ちいいものでしかない。男はすぐに猛スピードで腰を強く打ち付け、僕はその深さと激しさに白目を剥いて仰け反った。
「んあぁっ……あああぁ……いくぅっ……いくぅううううっ……!」
気がつけばそんな叫びを上げ、僕は肛門を犯されながら再び射精していた。
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