「さすがに責任を感じるよなぁ」 「んじゃな、原田♪」
篤や峰が帰り、俺の心の傷も少しばかり癒えた頃。
「あの〜、原田いますか?」
のっそりと顔を現したのは、A組の島内・・・満員御礼の蒼天祭で、衆人環視のもと俺に辱めを負わせた張本人だ。
畜生、・・・今さら何の用だ。
キズものにされてしまった俺としては、当分顔も見たくない相手であるが、まさかそんな女々しい態度をとるわけにもいかず。
「おう」
とだけ返事をする。
「ええっと・・・その、悪かったな。怪我、大丈夫か?」
そういう島内のジャージを捲りあげた膝も、大概傷だらけの泥だらけだった。
「大したことねえよ、気にすんな」
そう言った途端、小早川先生がケラケラと笑い始めた。
「もうお嫁に行けなぁい〜」
「ちょっ、先生・・・、何をっ」
つか、お嫁なんて言ってねえ。
勝手に改変すんな!
「えっ、えっ・・・?」
「そうねぇ、キズものにされちゃった責任、いっそのこと島内君にとってもらったら、ちょうどいいんじゃないの?」
「はっ!? ・・・あの、えっと・・・」
小早川先生の悪ノリに島内が顔を真っ赤にして動揺し始めた。
きっと普段は真面目な奴で、あまり保健室へ来たことがないため、先生のエロネタに免疫がないのかもしれない。
だとしたら、少し気の毒だ。
「皆の前で押し倒されて、半裸にされたうえに、怪我まで負わされたんだから、そりゃあショックよね。嫁入り前なのに、原田君可哀相・・・」
「そうか・・・そうですよね・・・。ごめん原田・・・俺、なんて言ったらいいのか・・・」
「あほか、謝んな! ・・・いや、謝るのはいいけど、少しは先生の話に疑問を持て!」
「原田君もそんなに泣かない。まあ皆の前で子供が産めない身体にされちゃったんだから、辛いのはわかるけど・・・」
待て待て待て待てー!
「泣いてねぇし、どっちかっていうと呆れてるし、初めから産めねぇし!」
お嫁にも行かねぇし!!
「島内君もこうして謝っていることだし、終わってしまったことを今更悩んでも仕方ないわよ。島内君も悪気があったわけじゃないんでしょう?」
「当然ですっ! ああ・・・俺、でも・・・原田に一生取り返しがつかないこと、しちゃったんですよね・・・最低だ」
島内が力なくその場に蹲り、頭を抱えて苦しみ始めた。
こいつ、単にノリがいいのか、それともまさかと思うが、本気で責任感じてるわけじゃないだろうな?
「こうなった以上、島内君・・・あなたも男として、ちゃんと責任をとりなさい」
「はい・・・。ただ・・・、原田がそれでいいのかどうか」
「いいわけねーだろ! つか、お前はいいのかよ?」
「俺はもちろん、それでいいっていうか、願ったり叶ったりなんだけど・・・原田はたぶん、よくないよね」
「たりめーだろ」
「あら、残念」
軽い調子でそういうと、小早川先生がまた新しい煙草に火を点けようとした。
「だから禁煙だって言ってるでしょうが!」
俺は即座にそれを、ケースごと取り上げる。
「も〜う、原田君のケチ!」
頭痛ぇ・・・。
「ああ・・・」
快活そうに手を振って、遅ればせながら小早川先生の治療を受けた脚を、僅かに引き摺りながら、A組の席へ戻って行く島内と分かれた俺は、自分の席を目指して、グラウンドを数十メートル歩く。
当然のことだが、島内が保健室で繰り広げたあれは、全て演技だ。
あとでわかったことだが、島内も相当の保健室の常連で、この3年間小早川先生のエロギャグに付き合い続けている大ベテランだった。
保健委員の仕事でしか基本的に保健室を使わなかったとはいえ、それでも2年間、週1ぐらいのペースで通っていた俺が島内を見なかったのは、単純にすれ違っていただけのようである。
まあ、島内の方はベッドでサボりながら、何度かカーテン越しに俺の姿を見た記憶があるらしいが。
べつに、それはいいのだ。
しかし。
「原田には、白ブリーフの方が似合うぜ♪」
などと言いやがった、島内の別れ際の一言は、俺を警戒させるに充分な威力を持っていた。
「油断ならねぇ野郎だ」
っていうか、俺ってどういうイメージなんだよ。
ちなみに今日はグレーのボクサー着用だ。
白ブリーフも何枚か持っているが、恥ずかしいので基本的に着替えのある日に履くことはないし、篤と付き合うようになってからは殆ど出番がなくなった。
というのも、篤が何度か履いているのを見たことがあり・・・それ以降、完全に履く気がしなくなったのだ。
「白ブリーフをああも見事に履きこなすとは、反則だろう・・・」
まあ、篤が履いていたのはブリーフというか、セミビキニと言ったほうがいいような、ピッタリとした少し小さい奴だったが・・・お陰で目のやりどころに苦労した。
一般来場者席を挟んで、サッカーグラウンドのネットを背にした、グラウンドの東側へ回り、3−Eの島へ到着すると。
「おや?」
前の方で江藤と川口が並んで、何やら盛り上がっていた。
トラックでは女子の100メートル走が始まっている。
ということは、この次は3年のクラス対抗フラッグ戦なので、そろそろ集合である。
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